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東京高等裁判所 昭和54年(く)384号 決定

少年 S・N(昭三五・五・二九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人弁護士○○○○○が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

本件抗告の趣意は、原決定が少年に対し中等少年院送致決定をした処分は著しく不当である、というにある。

そこで、関係記録を精査して、少年の処遇に関する情状を検討すると、少年は、昭和五一年八月に自動二輪車の無免許運転、同年九月に同車による業務上過失傷害、同年五二年四月に同車の無資格運転、同年七月同車による業務上過失傷害、同五三年四月に軽二輪車の無免許運転の各罪をそれぞれ犯し、同年八月に横浜家庭裁判所小田原支部において保護観察処分(交通短期)に処せられ、同年九月一九日に普通乗用自動車の運転免許を得たものの、同五四年五月二九日に六〇日の運転免許の効力停止の行政処分を受け、その直後の同年六月四日に、本件の保護事件である右運転免許の効力停止中にあるにかかわらず、兄たちとビールを飲んだ後、普通乗用自動車(五人乗り)に定員外の六名を同乗させて時速約五〇キロメートルにて運転し、先行車との間に追突を回避するのに必要な距離を保たず、その約八メートルの直後を進行したため、先行車が急に減速したのに即応する措置をとることができず、左に急転把してガードレールに接触しそうになり、あわてて右に方向を転じ、さらに危険を感じて左に向きを変えて急制動をしたが及ばず、左斜前方に滑走して道路左側のガードレールに激突して、右車を損壊し、なお右交通事故の発生等を警察官に報告せずに逃走し、その直後、現行犯人として逮捕され、そのうえ釈放された後の同年七月一〇日トルエン含有のパンクのりを空缶に入れて吸引するなどの非行を犯したものである。このような本件非行以前の道路交通法違反の各罪および業務上過失傷害罪の各前歴、および本件の事故態様からすると、少年は交通法規を遵守する精神に著しく欠けていて、運転免許の有無にかかわらず軽々に無軌道な運転に及ぶところの、交通に関する反社会性の強い傾向を有しているものと認められるところ、少年は規制されることを極端に嫌い、家の者に厳しく注意されてもその訓戒が少しも内面化されず一過的に直ぐ忘れて、自己の欲するままの行動を続ける性向を有していることを併わせ考慮すると、少年に対しては、現段階において厳正的確な専門機関による矯正教育をもつて、交通法規を遵守して社会生活を真摯誠実に送る精神を涵養馴致せしめることが、喫緊の必要事であると解されるのである。

してみれば、少年には交通法規軽視の非行以外には、特段に憂慮しなければならない非行傾向および性向もなく、また父親を中心とする家業の大工業に多少の支障を生ずることがあるとしても、少年の将来の善良な社会生活の適応を慮つて、その改善遷善を期待した原裁判所の中等少年院送致決定(交通短期)は相当というべく、右処分が著しく不当であるということはできない。したがつて本件抗告は理由がない。

よつて少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小松正富 裁判官 右丸彦俊 佐野昭一)

抗告申立書〈省略〉

〔参考二〕非行事実

(昭和五四年七月二日付け送致書記載の犯罪事実)

被疑者は

第一 公安委員会の運転免許の効力が停止されているのに、昭和五四年六月四日午後三時四〇分ころ、神奈川県横浜市○○区○○町××番地付近道路において、自家用普通乗用自動車○○××ち××××号を運転した

第二 前記日時、場所において、前記自動車を運転し、前方を進行中の普通自動車の直後を時速約五〇キロメートルで進行するに際し、前車が急停車してもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を保たず、わずか八メートルの間隔で追従していたため、急に減速した前車に即応できず、左に急に方向を転じたところ、路端ガードレールに接触しそうになり右に方向を転じ更に危険を感じて左に向きを変えて急制動したが及ばず、左斜前方に滑走して道路左側のガードレールに激突しこれを損壊した

第三前記日時、場所において、前記のような交通事故を起こしたのにかかわらず、事故の発生の日時及び場所等法律の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかつた

ものである。

(昭和五四年九月一二日付け送致書記載の犯罪事実)

被疑少年は昭和五四年七月一〇日午前〇時一五分ころから同日午前〇時四五分ころまでの間に神奈川県秦野市○○××番地秦野市○○運動公園駐車場内において、トルエン含有のパンクのりをピーチドリンクジュースの空缶に入れてみだり吸入したものである。

〔参考三〕少年調査票〈省略〉

〔参考四〕鑑別結果通知書〈省略〉

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